第4章 体育祭、それぞれの準備
「いたた…他人の母、人妻とメールやり取りするなんて!」
「あんたさっきから馬鹿言ってんじゃないわよ」
オバサンはアザミの頭を再びペシッと叩いていた。アザミも懲りねえ奴だな。
「心配かけさせんじゃねえよ」
おばさんにも、―――俺にも。
「じゃあな、早く家入りやがれ」
「勝己くん、本当にありがとねえ」
軽い会釈をする。
まだ驚いているアザミを無視してさっさと踵を返した。
背後でバタンッと扉の閉まる音を確認し、「やっと入ったか」と小さく安諸した。
「か…かっちゃん!
あ、ありがとーーーっ!」
「?!、ああ?」
アザミのでけえ声に思わず足を止めてしまった。
「近所迷惑だ!!」
振り返るとアイツ、家に入らずまだ手ぇ振ってやがる。夜は危ねえから早く家に入りやがれっつってんだろーが!!
俺はシッシッと「家に入れ」とジェスチャーする。アザミはそれすらも嬉しそうに、そんな俺に向ってピースサインを掲げた。
「……バァカ」
アザミの顔も見えねえくらい遠目でもわかる。
きっとアイツは大胆不敵に笑ってる。
「―――絶対ぇに、勝つ」
俺はヒーローになる。
体育祭も優勝する。
テメェはそこで首でも洗って待っとけや。
アザミを掻っ攫うのはデクでもクソ髪でも他でもねえ、この俺だ。
自分でも気づかねえうちに、俺の口は弧を描いていた。
覚悟しとけよ、アザミ。