第53章 最終話 evermore
初めて娘の口から男の名前を聞いた陣平くんは、目を丸くして美桜を見た。
「うん!けんじくん!けんちゃんっていうの!
保育園のおともだち!」
そう言った美桜は、きゃー、はずかし!と顔を両手で覆って照れている。
その様子を見ながら陣平くんはなんとも複雑そうな顔をしてわたしに目をやった。
「おいおい…まさか…萩のやつ生まれ変わって俺の娘に手ぇ出そうとしてんじゃねえだろうな…」
「ま、まさか…!」
「なんでよりにもよって萩と同じ名前なんだ…」
「まあ、初恋は実らないって言うじゃない?」
「お前は実ったんじゃねーの?」
そう言うと、正真正銘わたしの初恋の相手である陣平くんはわたしの髪を撫でながら頬にキスをした。
隣で美桜はパパとママ、ラブラブね。なんて言って笑ってる。
「んじゃ、帰ろうぜ。
萩、また来るからな。っつーか、寂しいならお前からも会いに来てくれよな」
「じゃあね、お兄ちゃん。
また来るね」
お兄ちゃんに手を振って、わたしたちは3人で歩き出した。
「ね、けんちゃんが本当にお兄ちゃんの生まれ変わりだったらどうする?」
「えぇー…萩…嬉しいような嬉しくないような…
美桜を萩にやるのか…
まあ、俺もミコトをもらった身だし…」
「そんなに真剣に悩まなくても…」
「ねえ!ママぁ!パパ!」
「ん?」
「どうしたの?」
「見て!きれいなお空!」
お兄ちゃんみたいだと思った、果てしなく続く雲ひとつない青空。
わたしと陣平くんの愛の宝物である娘が同じようにその空を愛でているのが、愛しくてたまらない。
生きるということは、何より尊い。
一瞬の出来事が運命を大きく変えたり、たった一歩足を踏み出すのが遅いだけで、九死にに一生を得たりする。
失った命も、新しくこの手に抱いたいのちも
愛する人と同じ地面を踏んで歩く喜びも
すべて、奇跡
わたしはこの奇跡を抱きしめながら、これからも奇跡を拾い集めて
生きていく
大切な人たちと一緒に、大切な人を胸に抱きながら
生きていく
evermore(永遠に)
Fin.
→あとがき