第53章 最終話 evermore
「はい、目を開けてください」
そう言われて、わたしが目を開けると鏡に映る自分と目が合った。
「わ…すごい…綺麗!
って、自分で言うのも変か…」
「ふふ。変じゃありません。とっても綺麗ですよ!」
そう言われてまた鏡の中の自分と見つめ合う。
頭にはティアラ、顔は華やかにメイクを施され、今からわたしが着るのは純白のウェディングドレス。
そう、今日は陣平くんとの結婚式の日だ。
あの11月7日から4ヶ月。
生死を彷徨った重症から、研修医として勤務できるまでに復活することができたのは、これもまた奇跡的で、藍沢先生には若いから回復も早くてよかったな。なんて皮肉も言われた。
意識を失っている間、このまま死ぬんだ…と思ったし、もしかしたら元いた世界線に戻されるのかもしれない。と覚悟もしてた。
けれど、陣平くんが何度もわたしの名前を呼んでくれたおかげで、ちゃんと陣平くんの隣に戻って来れたんだと思う。
レースの袖があるプリンセスラインのドレスに身を包むと、感動で思わず涙が溢れそうになるのをグッと堪えた。
陣平くんと本当に結婚するなんて夢みたいで、なんなら夢なら覚めないで!と今でも思ってるぐらいだ。
「さ、新郎様にお披露目ですね」
介添人さんに促され、控え室を出てチャペルへ向かう。
入り口のところで、紺色のタキシードに身を包んだ陣平くんの後ろ姿が見えた。
その背中をつん…と指で叩くと、陣平くんが振り返りわたしの姿を目視する。
その瞬間、陣平くんが思わず両手で自分の顔を覆った。
「え…陣平くん?」
「っ…やべえ…」
「お、おかしい?」
慌てて自分のドレスを確認するわたしだけど、陣平くんから鼻を啜る音が聞こえ、彼が涙を堪えきれずにいることを察した。
「反則だろ…それ…」
「感想、それだけ?」
泣いてる陣平くんをいじめたいなんて、鬼かな?