第50章 11月6日
11月6日の朝
「じゃあ、行ってくるわ。
今日はそのまま本庁に泊まるから、帰るのは8日になると思う」
「うん。行ってらっしゃい」
本当は行ってほしくない。
そんな思いをひた隠しにして、わたしは笑顔で手を振った。
玄関を出て、フロアの角を曲がりエレベーターへと向かう陣平くんを見つめるわたし。
彼の姿が見えなくなると、我慢していた涙が溢れた。
本当に8日に帰ってきてよ…?
約束だよ?
心の中でそう聞いても、陣平くんは返事をしてくれない。
わたしも、今日はお兄ちゃんのお墓参りに足を運んだ後、ボランティアに行って7日に向けて準備しなきゃ。
素人目で爆弾を仕掛けられそうなところはリストアップ済み。
少しでも可能性を絞るために、今日ボランティア終了後の時間を使って「ここに仕掛けるのをやめよう」と思われるような工夫をして回るつもりだ。
例えば、多目的トイレなら「1時間に一度、警備員が見回り中」や「このトイレは従業員も使用します」というポップを貼るだけでもきっと効果はある。
仕掛けるのを辞めさせるのは無理だから、あえてそのポップを貼らない場所も作り、仕掛ける場所を特定しやすくする狙いだ。
当日、見つけたらこっそり警察に連絡。
そして藍沢先生に手伝ってもらい、院内にも秘密裏に連絡し、悟られないように避難を指示する。
陣平くんを救うためには、陣平くんが一つ目の爆弾を解体する前にこの病院に仕掛けられていることを通報する以外無い。
爆弾を見つけ無い限り、通報しても信じてもらえないだろうし…
やるしかないんだ…
陣平くんと8日を迎えるために絶対…
彼が曲がった曲がり角を見つめて、ぎゅっと握った拳に力を入れて決意を固めていると、なぜかその曲がり角から陣平くんが戻って来た。
「えっ…陣平くん、何か忘れ物?」
「いや…」
別に。なんて言いながら戻ってきた彼は、わたしを両腕でぎゅっと抱きしめた。
「…?陣平くん…どうしたの?」
「ミコトがどっか不安そうな顔してたから、気になった」