第6章 もしも命が描けたら
陣平くんに抱かれたのは、あれが最初で最後になった。
それ以降も何度も家に行って、ご飯を作ったりしたけれど、特にそういう雰囲気になるわけでもなく。
だけど陣平くんの隣で
温かい春を過ごし、
夏は海に遊びに行って、
秋は美味しいものをたくさん食べて
冬は寒いねって寄り添って歩いた。
彼女になれなくても、陣平くんの隣にいることがいつの間にか当たり前になってた。
そうして何度かの季節が巡って、今まで通り、好きだとも言われないまま時間だけが過ぎた。
しばらく月日が経ったとき、陣平くんは突然捜査一課強行犯係に異動した。
異動してから5日経ったけれど、朝から晩までずっと忙しくしていて、ロクに顔を見ることもできなかった。
かたやわたしも大学6年生。
最後の国家試験に向けて猛勉強中だった。
滅多に顔も見れなかったけれど、メールや電話はマメに送ってきてくれた。
今日何食べたとか、今何してるとか。
毎日何通かメールをして、わたしが夜眠る前に5分だけの電話をくれる。
ただそれだけで嬉しかったの。
陣平くんの打った文字列を見るだけで、
陣平くんの声が受話器から聞こえるだけで、
好きだという言葉なんていらないと思えるぐらい、それだけでよかった。