第45章 好きなの
朝、寒さでなかなか起きられなかった季節が終わり、いよいよ来月からは大学6年生。
医学部最後の1年が始まる。
5年から始まった臨床実習もいよいよ大詰め。
先月から始まった救命センターでの実習は来月まで続き、実習が終わればいよいよ国家試験の勉強の毎日が待っている。
「陣平くんは、今日も遅いの?」
「今日?何も起きなけりゃ夜には帰る」
珍しく一緒に朝ごはんを食べている時は、帰りの時間を尋ねるのがルーティーン。
だけど、陣平くんの 何も起きなけりゃ って、大抵外れてる気がする。
むしろ、これ言った日はいつもより大変な事件が起きて帰宅が遅くなることが多い気が…
そう思うと、途端に陣平くんの身の安全が心配になる。
朝食を終えてネクタイを締めながらテレビ画面のニュースを眺める陣平くんの後ろから、わたしは思わずぎゅっと抱きついた。
「?どーした?」
「危ないこと、しないでよ?」
「なんだよ、危ないことって」
「っ…例えば、銃持ってる犯人に丸腰で向かって行ったり、暴走してる車に飛び乗ったり…
他にも、俺が変わりに人質になる。なんて犯人に交渉したり…」
「刑事ドラマの見過ぎだって」
そう言って陣平くんは笑い飛ばしたけど、全部もれなくやりそうなんだもん…
お兄ちゃんから警察学校時代のヤンチャ話をよく聞かされていたわたしは、彼がいつも無傷で帰ってくることが奇跡に近いとすら思っている。
わたしの嫌な予感は、80%以上当たることが多い。
今日、陣平くんが家を出る前に感じたこの嫌な予感も、半分的中したと知るのはその日の夕方のことだった…
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