第40章 疑惑
一気にヒートアップして熱くなる俺とは対象的に、藍沢は終始ずっと冷静で表情も崩さず、俺に一礼をすると部屋のドアノブに手をかけた。
「…待てよ…」
まだ話は終わってねぇと、俺は怒りで震える声で呼び止めたがそれを聞き入れられるわけもなく、藍沢がドアを開くと向こうに佐藤の心配している顔が見えた。
けど俺は、そんなこと気にしている余裕は一切なかった。
「おい!ちょっと待てよ!!」
出ていこうとする藍沢の肩を怒鳴りながら後ろから乱暴に掴むと、慌てて佐藤がそれを止めに入る。
「ま、松田くん!?ちょっと!」
「まだ話は終わってねぇ!」
「これ以上話を聞きたいのであれば、捜査令状をお持ちください。では」
「っ…うるせぇ!事件の話じゃねえんだよ!」
そう言ってまだ食ってかかろうとする俺を、佐藤が後ろから羽交い締めにして静止した。
「松田くん!!!何やってるのよ!!!落ち着きなさい!!」
まるで、熱り立った猛獣を鎮めるかのように、暴れる俺を止める佐藤。
そんな俺達の様子を見た藍沢は、スッと目をそらしてその場を立ち去った。
俺は、ずっとミコトが藍沢の話をするたびにイライラしていた。
けれどそりゃあ、ミコトにだって付き合いってもんがあって、四六時中俺の目の届く範囲においておけるワケもなく
仕事なんだから仕方ねぇ。大事な医者になるための実習なんだから仕方ねえ。
そう言い聞かせて怒りを鎮めていたんだ。
それが、藍沢の方に好意があったとなると話は別だろ…?
前に、ミコトに言ったことがある。
わたしは陣平くんにしか興味ないもん。と言いはるミコトに、「お前はなくても向こうはあるだろ」と。
それがこんな形で現実になるとは思ってなかった。
以前もプリンス新出のことで危機を感じたことはあったが、それよりも藍沢は「ミコトの尊敬する憧れの医者」だ。
俺の余裕をゼロにするには、十分すぎる出来事だった。
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