第38章 助けたかったのは
松田side
「わたしは、患者ではなく、兄を助けようとしたんです…もういないのに。3年も経ったのに…」
そう言って号泣するミコトを、藍沢先生は優しく抱きしめて慰めた。
その様子を、俺は何も言わずにじっと眺めてた。
何も言わなかった、というより、言えなかったんだ。
ミコトの今抱いている悔しいと言う気持ちを、俺の方が藍沢先生よりちゃんと理解してやれるという確固たる自信がなかったから。
俺は、くる…と身体を翻して、佐藤の車を停めてある方向へと歩き出した。
「行こうぜ」
「?いいの?彼女に一言言わなくて」
隣にいた佐藤は、俺が何も言わずにミコトを見つめていたくせに、突然背を向けたことに首を傾げた。
「これから、この事件の捜査だろ?
はやく署に戻ろうぜ。
…ミコトをこんな目に遭わせた犯人、必ず俺が捕まえてやる」
最もらしいことを言って、佐藤美和子の車の助手席にドカッと偉そうに座った俺は、窓枠に頬杖をついてボーッと窓の外を見た。
車が走り出し、移りゆく街のネオンを眺めていると、さっきのミコトを思い出す。
「…医者の苦しみは、医者にしかわかんねえってことか」
ぽつりと呟いた俺の一言に、運転席の佐藤は静かに答えた。
「…そんなの刑事だって同じよ。
刑事の苦しみは、刑事にしかわからない。」
「…そうかもしれねぇな…」
だけど俺は、ミコトの一番の理解者でいてぇんだ。
思えば思うほど汚く渦巻くこの嫉妬心を、もはやどう処理していいか分からずに、俺のため息が夜に消えて行った。
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