第32章 寝言の理由 ☆
松田side
ミコトと一緒に暮らし始めて、数ヶ月が経った。
相変わらず捜査一課はブラック企業並みに忙しく、帰れない日も多い。
朝帰りになる日はまだマシなレベルだ。
それでも夜に帰宅して、ベッドで俺のシャツを着せたテディベアを抱きしめて眠るミコトを見ると、可愛さと愛しさで疲れが一気に吹き飛ぶ。
そして、そのまま抱きしめて俺も眠りにつくと、ミコトは自分が起きた時、俺をキスで起こしてくれる。
たまらなく、幸せだ。
一緒に住み始めて、心からよかったと毎日思う。
今日はしばらく追っていた事件の捜査を終え、報告書のまとめがやっと終わったところだ。
「んーーー!終わったー!!」
時間を確認すると21時。
よし。今日はミコトが起きている間に帰れそうだ。
そう思いながら、ミコトにメールを打つ。
もうすぐ帰れそうだ。
腹減った。
それだけ打ち込んで送信ボタンを押そうとした時、俺の隣にいた佐藤がジャケットを羽織りながら言う。
「よし!松田くん!飲みに行くわよ!」
「は??や、俺今から帰…」
「なあに?私の飲みの誘いを断る気?」
「…パワハラだぞそれ…」
こいつ、体力どうなってんだ…
ここ数日、まともに寝てねぇくせに飲みに行くのかよ。
そうは言え、仕方ねぇな。
一応教育係からのお誘いだし、こいつには日頃色々と迷惑もかけている。
ここで恩を打っておくか。
俺は送信しようとしていたメッセージをDeleteして、違う文字を打ち込んだ。
「飲みに行くことになった。
先に寝ておいてくれ」
まあいいか。
今日は日付変わるまでに帰って、明日働けば、明後日は非番だ。
それも土曜日。
大学も休みだろうし、土曜日にミコトをどっかに連れてってやろう。
そう思いながら、俺は付き合いのためだと言い聞かせ、佐藤センパイと居酒屋へ向かった。
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