第29章 この部屋で過ごす最後の夜 ☆
11月6日がやってきた。
お墓参りに行こうと言っていたこの日だけど、陣平くんは仕事の都合で休みを取ることはできず、どうやら仕事の合間を縫って月参寺に向かうらしい。
わたしはひとまず陣平くんの家に合鍵を使って泊まるための荷物を中に入れた。
「重かったー!!」
今日のお泊まりの荷物に加え、引越し用の私物をトランクやリュックに詰め、大荷物でアパートの階段を登った後はもうクタクタだ。
でも仕方ない。
家具家電の大きいものやダンボール10個までは引越し屋さんに運んでもらうけど、それ以外の服や小物、食器なんかは節約のために自分達で新居に運ぶことにしたから。
まあ、同じ最寄り圏内の引越しだから、ある意味楽かもしれないけれど。
この部屋で過ごすのも、今日で最後。
明日から二人の新居に移り住むことになる。
タイムスリップする前は、陣平くんの彼女になりたくて足繁くこのアパートに通い、彼のために料理や家事をしたことを思い出す。
そして、タイムスリップした後は、陣平くんの彼女としてこの部屋で数えきれない思い出が出来た。
抱えきれないほどの愛を陣平くんがくれた場所だ。
わたしが陣平くんと恋人同士になったこと、陣平くんの捜査一課配属が早まったこと。
色々と運命が変わりすぎて、もうタイムスリップする前とは全く違う世界を生きている気分になる。
このまま、全部がいい方向に転がればいいのにな。
そんなことを思いながら、わたしは陣平くんのアパートからタクシーを拾い、月参寺へと向かった。