第28章 はじまりの一歩
仕事が忙しい陣平くんに代わり、電話で不動産屋と話を進めた結果、入居日は来月11月7日に決まった。
そう。お兄ちゃんの2度めの命日の日だ。
「だからね、6日にお墓参りに行って、そのまま陣平くんの家に泊まって、7日は朝からお引越しにお昼からIKEA!どう?」
と、もう深夜というのにハイテンションで電話口の陣平くんに話しかけるわたし。
仕事の合間を縫ってかけてくれた様子の陣平くんは、タバコの煙を吐きながら笑った。
「随分張り切ってるな」
「そりゃあ、だって二人での生活のスタートラインだし」
張り切るのも突然でしょ?と言う風に返事をすると、陣平くんはまたタバコを吸って吐いたあとに了承してくれた。
「いいぜ。そのプランで。
どうせ6日に同期4人で墓参りに行く予定だったし。
お前も一緒に来いよ」
「じゃあ混ぜてもらおうかな。
お兄ちゃん、きっと喜ぶね。
にぎやかなのが好きだったから」
ふと兄の喜んだ顔を思い出しながらそう言うと、電話口の陣平くんも懐かしむように笑った。
「萩の周りにはいっつも人がいたからな。」
「うん…自分の兄ながら、すごい人望だなって思ってた。
本人には言わなかったけど」
もっと、伝えてあげればよかったな。
お兄ちゃんの、万人に好かれる優しいところが大好きだった。
ワガママで、頑固なところがあるわたしは、お兄ちゃんの柔軟な性格に憧れてた部分もあったから。
「心配すんな。言葉にしなくても萩はちゃんと分かってた。」
「そうかな?」
「そうだって。
萩に、改めて報告しないとな。
お前の大切な妹とひとつ屋根の下で暮らし始めるわって。
…お、じゃあ俺そろそろ会議だ。
また明日、時間見つけて電話する」
「うん。おやすみ、陣平くん」
「おやすみ」
そう言葉をかわして、電話が切れた。
来月、11月6日と7日を心待ちにしながら、わたしは布団の中に潜った。
さっきの陣平くんの「おやすみ」を何度も思い出しながら。
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