第28章 はじまりの一歩
松田side
昨日の夜は、珍しく眠れなかった。
思えば今まで生きてきた中で、緊張して眠れないのは初めてだった。
ボクシングの大会の時も、警察官採用試験の時も、初めて爆弾処理班として出動する前日も、ぐっすり寝るのが俺だったのに。
明日の夜、ミコトの両親にまだ学生のミコトと同棲させてほしいと言いに行くんだ。
もうそれはほとんど、娘をくれと言うようなもんだろ?
そう思うと、なかなか寝付けなかったんだ。
俺らしくもない。
「陣平くん?」
名前を呼ばれてハッと隣を見ると、ミコトが心配そうに俺を見た。
気付けばもう萩原家の玄関の真ん前だ。
「あ、あぁ。」
「大丈夫?まさか、緊張してる?」
「いや?全然?
…行こうぜ」
平気なふりを装って笑ってみたが、嘘だ。
あり得ないほど緊張してる。
今にも心臓が飛び出して来そうなぐらいだ。
そんな俺をよそに、ただ自分の家に帰るだけのミコトは平然と玄関ドアを開けて中に入った。
「ただいまー!」
「おかえりー。」
そう言って出迎えてくれたのは、ミコトの母親。
そして、萩原の母親だ。
ミコトの母には前にも一度挨拶をしたことがある。
正直ホッとした。
いきなり父親が出て来たらどうしようと、ガラにもなくビビってたから。
「あら、松田くん。いらっしゃい」
「ご無沙汰してます」
そう言って頭を下げる俺を見て、ミコトの母は目をまん丸に見開いた。
ミコトには、俺からちゃんと話すから両親には俺が来ることを言うなと言ってあったから当然だ。
「今日はどうしたの?
わざわざ家まで送ってくれたの?」
「あ、お母さん。
お父さんもいる?」
「ええ。リビングに。どうしたの?」
そう言う母に、俺は覚悟を決めて口を開いた。
「…俺が、お二人に話したいことがあって来ました。」
「…そう?じゃあどうぞ」
いつになく真剣な表情の俺を見て、ミコトの母は戸惑いながらも中に入れてくれた。