第20章 兄が愛した人 ☆
ベッドの中で、陣平くんの腕枕で微睡む瞬間が、何より幸せを感じる時だ。
今日も陣平くんの逞しい腕に抱かれて、わたしはじっと陣平くんの顔を見つめた。
「何だよ。人の顔、ジロジロ見て」
「…ううん。
1年、経つんだね。陣平くんと付き合い始めて」
「そうだな。あっという間だったなー」
そう言って陣平くんは、天井を眺めた。
「…萩原が死んでから1年。
そんで、俺たちが付き合ってから1年。
1年365日も経ったのに、俺は何一つ成長してねぇな。
未だに萩原を殺った犯人の手がかりひとつ掴めて無いし」
「でも、きっとお兄ちゃんは怒ってないと思うよ。
陣平くんのこと、褒めてくれてると思う。
陣平ちゃん、俺の妹をこんなに幸せにしてくれてサンキューって」
そう言いながらわたしは陣平くんの身体に抱きつく力を強めた。
「むしろ萩原に睨まれそうだぜ。
ミコトのこと、めちゃくちゃに抱いてるわけだし。」
「…お兄ちゃんだって、あの人とめちゃくちゃしてたんだろうから、おあいこだよ」
そこまで言うと、またあの人のことを思い出した。
「お兄ちゃんの彼女。
せめてどこかで幸せになって欲しい。
なんて言ったら、お兄ちゃん怒るかな」
「いや?
あいつも同じこと思ってるだろうよ。
ただ、好きな奴の幸せを願うような男だったからな。萩は。」
「そっか、そうだね…」
「来年のこの日は、何か変わってるといいな。」
そう言って陣平くんはわたしを抱きしめたまま目を閉じた。
来年…
わたしは変わらずこうして陣平くんといられるのだろうか。
陣平くんは今の状況を変えたいみたいだけど、わたしはむしろ変わってほしく無い。
今のままずっと、平凡な毎日を陣平くんの隣で過ごせたらいいのに。
こうして、お兄ちゃんの初めての命日は静かに明日を迎えた。
Next Chapter...