第2章 初恋のはなし
次の日、帰り支度をしたあと、BBQで使った備品を、キャンプ場まで返しに行こうとした時、陣平くんがわたしが持っていた備品をヒョイっと持ち上げた。
「ミコト!昨日ぶっ倒れたくせに、こんな重いもの持ってんじゃねぇって」
そんないつもの陣平くんの優しさが、今のわたしには氷のように冷たく心に刺さる。
「大丈夫だよ。持てる。子供じゃないんだから」
そんな風に言って、陣平くんが持ってくれた備品をまた取り返し、わたしはズンズン前に進んでいく。
「ミコト。何怒ってんだよ」
「…怒ってないよ」
「っていうか、またそんな短いスカート履いて。
膝出すなって言ってんだろ?」
短いミニスカートを履いていたわたしを見て、陣平くんが言う。
トクンと胸が高鳴ったのが悔しくて、わたしは思わず陣平くんの手を払い除けながら、声を荒げた。
「っわたしじゃないなら!
…もう…優しくしないで…」
「何言って…」
「優しくされると、辛い」
そう言いながら目に涙を溜めて陣平くんを見るわたしに、陣平くんが困惑と苛立ち両方持ち合わせた声で言う。
「…意味わかんねぇ。」
「陣平くんのことが、好きなの!」
どうしてわからないの?
そう思った瞬間、好きだという尊い言葉を投げ捨てるように言った。
初めての告白が、こんな形になるなんて。
即座に後悔したのに、解き放った言葉はもう元には戻せなくて、8年分の想いはこんなもんじゃないのにな…なんて、タイムマシーンに乗ってほんの数秒前に戻りやり直したくなった。
陣平くんは、少しだけ困ったような顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「俺も、ミコトのこと好きだぜ?
けどそれは、妹としてだ」
「妹妹って、お姉ちゃんのことは女として見てるくせに」
「…ごめん」
ごめん
それが、陣平くんに出来る、精一杯の誠意だったようだ。
この日から陣平くんは、うちに一度も来なくなった。
お姉ちゃんが警察学校に行き、わたしが高3になっても。
お兄ちゃん達が警察学校に入学して、わたしが大学生になっても。
陣平くんは、一度もわたしの髪を撫でなくなった。
陣平くんと再会するのは、陣平くんが警察官になった後のこと。
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