天命と共に 【文豪ストレイドッグス】 サンプル小説
第1章 序章
1人の少年が、泣いて帰ってきた
『あらあら、どうしたの……"蘆花ちゃん"』
『……皆がね、僕の髪、怖いって、呪われてるって……言ってくるの、髪、引っ張られたりして、痛かったよ……っ、』
しゃくりあげながら、少年は駆け寄ってきてくれた2人の女性に伝える
2人は互いに顔合わせる、それでも、その顔には笑顔を浮かべて……彼女達は少年を優しく包み込んだ
『ねぇ、蘆花……貴方はその髪色……嫌い?』
静かに問い掛けられたその言葉に少年は、目を丸くさせた後にしゃくりながら緩く首を横へと振る
『ううん……好き、大好きだよ……だって、お父様とお母様が、僕の色……好きって、綺麗って、言ってくれるから……』
『そうよ、だって……"その髪が、私とこの人の子供である証"なのよ、嫌いなんて、言うわけないじゃないの』
『この髪が……?』
少年は自身の肩にまで伸びた髪を2人に掲げて見せた
太陽に反射して、透けた髪は赤く、鮮やかに光る
『そう、貴方もいつか……大きくなって、誰かと"番"になるのよ? そしたら……貴方も私達のように"綺麗な女性"になるわ』
『番……?』
『そうよ、私とこの人のように……"一生、添い遂げることを約束した人"のことよ』
2人の言葉に少年は言葉を濁し、視線を逸らす
『でも……僕のこと、呪われてるっていう人になんて……』
『言わない人だって、居るわ……"貴方の髪を綺麗"だと褒めてくれる人だって、居る筈よ』
女性は一度、言葉を切った後に小さく笑みを溢した
『だって、世界には、沢山の人が居るのだから』
『そうよ、貴方は呪われてなんかいないわ、自信を持ちなさい』
2人は少年の頭に手を置いて、頭を撫でながら彼の目尻に溜まった涙を人差し指で拭う
『うん……お父様とお母様が言うのなら、僕……頑張って番?を見つけるっ!』
少年は服の袖で乱暴に涙を拭うと共に2人に抱き着いた
『それでね、僕……っ、』
2人の温もりを胸に少年は眩い笑顔を見せた
『"お父様とお母様みたいになる"っ!』
それが当時、未だ少年だったーー俺が、両親にかけてもらった、数少ない……優しい、言葉だった