聖夜はアナタの好きにして【鬼滅の刃/上弦の鬼短編】
第1章 PASSION
*
「黒死牟様!いよいよっすね!」
「あぁ...。」
俺はこの人の専属になれて良かったと思っている。
仕事ではめちゃくちゃキラキラしててカッコいいし、トークもそれを鍛えるために修行のつもりで入ったらしい黒死牟様は、俺の運転する車でだけ、こうして寛いでくださる。
走行中は無口で最初はマジで何を考えてんだか分からない人だったし、怖いって思っていた。
だけど、本来はこっちの方が素だろうと思ったのは、この人の専属になって初めてのクリスマスの時だった。
「お前を専属にして良かった....。いつも無口ですまん。これからも頼むぞ....。」
と、女を悩殺するようなカッケェ笑みをふっと見せてくれたんだ。
そんな黒死牟様も、年度明けには実業家デビューを果たして鬼舞辻グループを卒業されることになっている。
この人には凄く世話になったし、礼をしても足りないくらいいろいろ学ばせて貰った。
そんな人がここを去ってしまうのは正直寂しいけど、すげぇ応援してんだ。
最後までしっかりこの人を支えようと思っている。
「獪岳。今夜は勤務時間後向かうところがある....。今日はそこまでだ....。」
「承知しました!」
恐らく、プライベートだろう。おおよその検討はついているつもりだ。イベントの時にしか現れない、この人に大量の額を使う綺麗な女の人。
ホンの僅かな差だが、ずっと一緒で、オフに切り替わる表情を知る俺だから解る。
あのお客様と一緒にいらっしゃるこの人は少しだけ営業で出す笑顔ではなく穏やかな表情を見せる。
スマホをいつも使わないやつを弄っているときと同じ表情。
今夜はその人と約束をしているんだろうと思う。
店の前に着くと、数人の新人ホストとボーイが立ち並んだ。
「ご苦労。」
そう言ってセットした俺の髪をクシャっと撫でて出ていく。
「「「黒死牟様!お疲れ様です!!」」」
外の出迎えの男たちの大きな声が俺にちょっとした優越感に浸らせてくれる。
今日も黒死牟様はカッコいい。
そう思いながら、裏手の専用駐車場に車を走らせた。