第5章 近付いた距離から変化は訪れる
結莉乃
「……ん…」
翌日の昼時に結莉乃は目を覚ました。
彼女の瞼が持ち上がると、世話役の若葉が嬉しそうに表情を和らげる
若葉
「良かった…、お目覚めになられて」
まだ意識が覚醒していない結莉乃は、ぼーっと天井を見てから若葉の事を見る。そしてすぐに、はっとして上半身を起こす
結莉乃
「慎太くんは!?」
若葉
「大丈夫ですよ。貴女の事を連れて帰ってきたのも吉良さんです」
結莉乃
「そっ、かぁ…良かった…」
若葉
「貴女は大丈夫ですか?」
結莉乃
「あ、はい!良く寝られたおかげで元気です」
彼女が笑って見せると若葉は安心した様に息を吐き出した。
結莉乃
(あの時…何で倒れたんだろう…。初めての戦いで疲れたから?)
初めての戦い、という言葉を自分の内側で呟いてから思い出した様に軽く拳を握る。
結莉乃
「今のままじゃ…駄目だ…」
若葉
「え…?」
結莉乃
「私、八体いた中で二体しか倒せなかったんです…」
若葉
「初めての戦いで、恐ろしい異形を前にして…女性の力で二体も倒せれば凄い事だと私は思います」
結莉乃
「若葉さん…」
励ます様な視線に結莉乃は、慎太に掛けられた時と同じ様な安堵感に包まれた。それでも、今のままでは駄目だと…もう少し力をつけなきゃと思った結莉乃は若葉を見詰める
結莉乃
「あの、此処で一番強いのって誰ですか?」
若葉
「え?皆さんお強いですが、一番と言われますと…やはり主様です。主様以外でと仰るなら…そうですね─…」
結莉乃
「あまっ…浦風さん!」
天音
「あ゙?」
慎太より少しだけ短い襟足の黒髪をした天音は眉間に皺を刻みながら聞き覚えのない声に振り返った。結莉乃は天音の掠れたような声の不機嫌さに怯みそうになったが、ぐっとそこへ脚を踏み留まらせる