第9章 ハッピーウエディング、の巻
お母さん、お母さん
なぁに?
お母さんは、ウエディングドレスきたコトナイの?
まだ、小学校に上がったばかりの頃
テレビで結婚式場のCMを見た幼い僕が、母にそんな事を訊いた事があった
その、幼い故に訊いてしまった残酷な質問に
母は少し困った顔をして答えた
う〜ん、そうねぇ、無いわねぇ
きたくナイの?
そう訊かれて、今度は少女の様な笑顔を見せると、ぼくの頭を撫でてくれた
うふふ、そりゃあ着たいわよ?女の子の夢ですもの
じゃあ、ぼくが大きくなったらお母さんにウエディングドレスかってあげる!
僕の無邪気な宣言に、目を見開いて驚いた顔をする母
えぇ?本当?
うん!ほんとう!!
うふふ、ありがとう智…ありがとうね?
えへへ〜、お母さんのウエディングドレス、きっとキレイだね!
そんなこと、出来はしない事を知らない僕が呑気にはしゃぐ姿を
母は何も言わず、少し悲しそうに笑って見ていた
ねぇ、お母さん
僕、大人になって、お母さんに似て来たよ
お父さんも、僕はお母さんに良く似てるって言ってたよ
もし
もしもね
そんなコト出来ないとは思うけど
僕がウエディングドレスを着たら
お母さんが着てるみたいに見えるかな?
そしたら
お母さん、少しは自分が着た気がして嬉しいかな?
「……そんな訳無いか」
「ん?どうしたの、智くん?」
ベッドの上で翔くんの腕に抱かれながら微睡んでいたら、急にまた子供の頃の事を思い出した
お父さんの事があったからか、この頃よく子供の時の事を思い出す
「何でもないよ」
「…そう?」
ちょっと心配そうに僕の顔を覗き込む翔くん
そんな顔を見てると、胸の奥からふつふつと愛しい気持ちが溢れてくる
あぁ、僕はこんなに愛されてるんだって
あぁ、こんなに僕は彼を愛してるんだって…