第8章 智くんのお父さん、の巻
「翔くん、お花とって!」
「はい!…これ、切らないでそのまま活けるの?」
「うん、ちゃんと買う時にお花屋さんに切ってもらったから大丈夫だよ」
僕は翔くんからお花を受け取って水差しに入れた
お母さんの好きな大輪の白いユリは、甘い香りを辺りに撒き散らしていた
「…お母さん、もう百合の季節も終わっちゃうね」
僕はモノ言わぬ墓石を撫でた
ふと、視線を感じて目をやると、優しく僕を見つめる翔くんと目があった
翔くんは黙って僕の隣にしゃがむと、墓石に向かって手を合わせた
僕も同じように手を合わせて目を瞑る
(お母さん、僕これから……あの人の所に行ってくるね…
…お母さん……僕を、見守っていて下さい)
目を開けて横を向くと、また優しい翔くんの眼差しと目が合う
「…お墓の前で、不謹慎かな?」
「え?」
翔くんはそう言うと僕を抱き寄せて、優しくキスをしてくれた
「俺ね、一生智くんを守り抜きますってお母さんに誓ったんだ」
「……うん」
「何時もね、来る度に誓うんだよ…智くんを守ってみせるから、安心して休んで下さいって」
「……うん」