第38章 忘却の彼方に…、の巻
.
(………ここは、何処?)
目の前を、清らかな水を湛えた小川が
静かに流れている
(………なんだろう、僕………前に、見たことが………ココに、来たことがある気がする………)
さらさらと流れる川面に
淡い光が反射して、きらきら煌めいている
(………あれは、確か………そう、夢を………
………夢で、見たんだ………)
─まま
(………え?)
何となく聞き覚えのある幼子の声が
耳の奥で響く
─まま、まだ、来てはダメだって、言ったでしょう?
何となく聞き覚えのある声が、悲しげに呟く
(……貴方は、誰?
僕を、知ってるの…?)
─知ってるよ、まま
だけど、ままはぼくを忘れて良いよ
ぱぱが泣いてるから
早く、戻ってあげて?
幼子の声が、憂いを帯びながらも優しく囁く
(パパって?
誰のパパが、泣いてるの?)
─ぼくのぱぱだよ、まま
だけど、それは忘れて良いんだ
ぼく、生まれて来る世界を間違っちゃったみたいだから
だから、また次に生まれ変わった時に、ぼくを産んでね
…まま
幼子の声が
耳の奥で遠ざかって行く
(待って!
産むって…貴方は僕の…)
─さようなら、まま
ぱぱと、何時までも仲良くしてあげてね
さようなら
…さようなら…
さらさら、さらさらと
清らかな水が、眼下を流れて行く
ぽろぽろ、ぽろぽろと
止め処なく涙が、眼から流れて行く
さらさら、さらさら…
ぽろぽろ、ぽろぽろ…
清流と涙が
流れて、遠ざかり………白い靄の中に消えて行く
大切で、悲しい
君の、記憶を連れて…
「……………」
ふと、意識が浮上して
僕は、閉じていた眼を開けた
.