第1章 Hallowe'en
<ラクサスの場合>
彼がイベントごとに興味関心を示すなんて、思ってないけれど、私がそれを楽しむ邪魔はして欲しくない。
「良いじゃない!別に!」
「しつけェぞ、ダメだ。」
「ラクサスにしてって言ってるわけじゃないでしょ?」
「当たり前だ。」
「じゃあ、」
「諦めんだな。」
さっきからソファにどっかり座って横暴な態度で葉巻を吸っている彼。話は終わったとばかりに立ち上がってヘッドホンをつけ、先行くぞ、と言って家を出る。
私の持ち物は何処かに仕舞われたままだ。
事の発端は先日。ハロウィーンの仮想をルーシィとミラとしようと盛り上がって衣装を買いに行ったことから始まる。私はオーソドックスな魔女のコスプレにして、意気揚々と家に帰った。そこで買い物袋をそのまま置いておいたのがいけなかったのだ。ラクサスに何だこれと聞かれて馬鹿正直にコスプレ!と答えた。20歳にもなってギルドで恥ずかしい真似すんなと言われて衣装をどこかに隠された。
そして冒頭に至るわけだ。因みに衣装は割と本格的で、太腿までの黒いアワー・ドレスにクモの巣を模したレースがあしらわれたもの。お気に入りなのはウエストから下に向かって伸びるレースのテールだ。
もちろん魔女の帽子や杖などの小物も揃えてあった。どれもルーシィやミラと一緒に決めたもの。
どれだけ家じゅうを探し回っても見つからない衣装。仕方なく私は手ぶらでギルドに向かった。
「え?ノエル、コスプレは?」
「あら、どうしたの?」
事情を話すと2人は揃ってああ~、と何やら納得して顔を見合わせている。私はそんな2人に疑問符を浮かべる。ややあってミラが私にそっと耳打ちする。
「それはね、ラクサスが」
「オイ、余計な事吹き込むな。」
ミラと私の耳の間に分厚い掌が割り込む。
「あら、ラクサス。恥ずかしがってないで理由くらい言わないと。」
「そうよ。ノエルは絶対自分じゃ気付かないわよ。」
ミラもルーシィも失礼じゃないかしら。苦虫を嚙み潰したような顔でラクサスはうるせェと言い、私の手を引いてギルドの2階に上がって行く。
「…すんなら、俺の前だけにしろ。」
そう言って投げてよこされたのは買った紙袋。耳が赤くなってしまった彼が言いたいことは十分伝わった。
だから私は彼に抱き着いて赤い耳にうんって囁いた。