第1章 Hallowe'en
<ナツの場合>
「ノエル!トリックオアトリート!!悪戯よこせ!!」
「まとめんなよ!」
今日も全力でボケ倒すナツに、これまた鋭い突っ込みを入れるグレイ。
10月31日の今日はハロウィーンだ。いつも騒がしいギルドもお祭りがあるとひとしおで。大きなナツの声が小さく聞こえるのが新鮮だ。
「今日も元気だね、ナツ。はい、クッキーあげる。グレイにも。」
「やったー!サンキュ!」
「俺の分もあるのか、ありがとな。」
「ジュビアに見つからないように食べてね。私まだ死にたくないし。」
「おう…。」
ジュビアにバレることを考えて、少し鳥肌が立ってしまった。お菓子作りが好きなこともあって、私は毎年ハロウィーンには家でお菓子を作ってギルドの皆に配っている。今年はコウモリやゴースト、クモなどを模したアイシングクッキーにした。
「ふぉい!ふへいひほんはのほっはひへえ!」
「もう食べてるんだ…。」
「んだと?クソ炎」
「通じてるんだ。」
「んぐッ!寄越せ!!」
「上等だ!来いやァ!」
「喧嘩するんだ!?」
ちょっと状況がよくわからない。ナツが一体グレイの何を寄越せって言ってるのかも、どうしてグレイがニヤつきながら喧嘩してるのかも。
結果的には偶然通りかかったエルザに両成敗されたんだけど。たんこぶを作ってぶすくれているナツに聞いてみる。
「で、喧嘩の原因は?」
「何でもねェ!」
「んな訳ないでしょ。ナツは何が欲しかったの?」
「クッキーだろ。」
「ちげェ!」
赤くなっているナツなんて久しぶりに見た。グレイはなおも揶揄う様に畳みかける。
「ノエルのクッキーを他の野郎にやりたくねェんだと。」
「え…。」
「…うるせェ!!」
「図星だな。」
「~ッ!」
何時もどんと構えているナツがこんなに小さくなっているのが何だか可笑しくて、可愛いと思ってしまう。私はそっと胡坐をかいているナツの側にしゃがみ込んで言った。
「じゃあ、来年からはナツだけ、みんなと違うもの作るね。」
「ほんとか!?」
「うん。」
さっきまでの縮こまりようは何処へやら、ぱっと何時ものように咲いた笑顔につられて私も笑顔で頷いた。
「あーあ、あんなに花咲かせやがって。勝手にやってろ。」
完全に蚊帳の外になってしまった氷魔導士は肩をすくめて立ち去った。