第5章 不完全で不器用な
「万次郎、晩ご飯だよー。」
ソファに横になってTVを観ていると、彼女がひょこっとオレの前に顔を覗かせた。
「おわっ、ビビんじゃねーか!」
「あは、ごめんごめん。立てる?私に掴まって。」
彼女に掴まり食卓へ着くと、豪華なお子様セットが並んでいた。
「お子様、セット…?」
「万次郎好きだったでしょ?あれ?嫌いになった?」
「いや、スッゲェ美味そうじゃん!なんだよコレ、食べていいの?」
「万次郎の為に作ったんだから食べてよ。おかわりもあるからね?」
「いただきまーす!」
中学の頃、何度か作って貰った料理の味はその時よりうんと美味くなっていた。
ちゃんとした手料理なんてエマが亡くなって、彼女と別れてから食べる機会が無かったからか、なんとなくその暖かさに涙が滲んでしまった。
「こうしてると新婚さんみたいだねー。…万次郎?」
「いや、なんでもねぇよ。オマエ料理上手くなったな。」
「…そ?ありがと。いくらでも作ってあげるからね。」
ニコリと笑って彼女も料理に手を付けた。
数日前の事が嘘のように穏やかな時間が流れ、二年間という空白の年月は無かったかのように自然に二人の会話も弾んだ。
「あれ、さくらもう食わねーの?」
俺のより小さなその皿には、ほとんど手付かずの状態で残っていた。
「さくら…食わねぇと身体持たねーよ?」
「でも…。」
俺は彼女の横に移動し、座り直した。
「さくら、俺が食べさせれば食う?」
「えっ、いいよ恥ずかしいし。」
「ダーメ。はいあーん。」
スプーンに乗せたオムライスを口に運ぶと、恥ずかしそうに小さな口を開けて受け入れた。
顔を真っ赤にしている。
「さくら可愛いな、子供みてぇ。」
「もうっ、恥ずかしいからいらない!」
「あと一口、な?」
「もー…これで終わりだよ?」
もう一度スプーンを差し出すと、恥ずかしがりながらも食べてくれた。
「こうやって毎日一口ずつ増やしていこーな。そうすればまた前みてぇに食えるだろ?」
「万次郎…うん、そうだね。」
「残したのは俺が食うから心配すんなよー。」
「うん、ありがとう。」
食事が受け付けなくなっている今、少しずつでも何とか食べて貰いたいと願い、俺は余った料理に手をつけた。