第8章 ぬくもり(ギルベルト)
ぱらぱらと雪が降る日。俺は城の大きなドアの前で自分の手を見つめて立ち止まっていた。ギィィとドアが開く音を聞きながら、ついさっきの出来事を思い出した。
――「お許しを!友人に誘われて、今日”たまたま”ここにいただけなんです!決して反逆なんてしようとは……ぐっ」
醜く許しを請った反乱分子を打ち抜く。胸を貫かれた、人だった塊は白目を剥いて倒れ伏した。まったく人と言う生き物は自分の命が危うくなると、嘘をつき、仲間を売り、どうしようもない。
カツンと地下の一層冷えた床に杖の音が響く。辺りは血の海だ。21人だったか。側近のローデリヒに片づけを頼み、マントを翻す。今頃子兎さんは入浴を済ませ、本を読んでいる頃だろう。重苦しい息を吐きだし、子兎さんの待つ城へと歩みを進めた。
――「ギルベルト様!おかえりなさい!」
ドアが開くなり、子兎さんは俺に駆け寄って手を差し出した。しかし、今日の自分の手はピクリとも動かなかった。
「今日は手を握る気分じゃないんだ。ごめんね?」
子兎さんは数秒固まったのち、それでも、と強引に俺の手を握った。
「俺が何をしてきたか知ったうえで握ってるの?」
「察しました。でも握らせてください。」
まったく、心が綺麗な人間と言うのは何を考えているのか分からない時がある。
「私は誰にも穢せませんよ。ギルベルト様が一番知っているはずです。それに……」
子兎さんはもごもごと口を動かした後、息を吸って口を開いた。
「ギルベルト様を、一人にしたくはありませんから」
「……どうして口ごもったの?」
「そ、それは…… 愛の告白みたいで恥ずかしいじゃないですか」
「今更だね」
お互い笑いをこぼして城に入る。
「ギルベルト様、おかえりなさい」
「うん……ただいま」