第5章 捏造ブライダル2022
キース編
カラン…カラン…カラン…
たくさんの真っ白い鳩が、青空に飛び立っていく。一段と輝かしい太陽に目を瞑れば、丁度1年前の記憶が色鮮やかに思い出される。
――あの日、私とキースさんは森の奥にある湖に来ていた。
森の香りに瑞々しさが混じり、久しぶりに見えた太陽は目が眩むほど眩しい。原生林に囲まれ、そよ風が水面を優しく揺らしている。幻想的ないい場所だというのに、隣に座っているキースさんはどこか遠くを見つめていた。
そよ風が止み、森の僅かなざわめきが遠のく。キースさんはゆっくり、息を吸いながら口を開いた。
「ベルさん。今日は君に伝えたい事があるんだ。」
キースさんは真っ直ぐ私を見て、そう言う。
「俺は今まで、いつどこでも『王子として』の振る舞いを求められてきた。でもベルさんは、ありのままの俺を受け入れてくれた。俺の『人として』の居場所になってくれて、ありがとう。もう1人の俺も大事にしてくれて、ありがとう。君は、あいつは『そうなっていたかもしれない』俺で、どっちも本当の俺だ。俺は皆を裏切ってなんかないって言ってくれたよね。救われたよ。ありがとう。…これまでは謝ってばかりだったけど、これからは君に沢山の感謝を伝えたい。」
ゆっくり息を吸って、再びキースさんは口を開いた。
「俺の傍にいると、自分を蔑ろにしなければならない時も出てくると思う。でもそれが凄く辛い事だって、俺には痛いほどわかる。だから、俺はベルさんの人としての居場所でありたい。俺が君の人としての居場所を守るよ。俺と結婚してください。」
――割れんばかりの拍手喝采が聞こえる。
目を開けて隣を見れば、キースさんは泣きそうな顔で私を見つめていた。
「おめでとうございまーす!」
「キース様!ベル様!おめでとうございます!」
こうして皆が祝福してくれるのは、キースさんが皆の心を大切にしてきたからだ。
鹿の紋章が入ったハンカチでキースさんの涙を拭うと、キースさんは花が咲くようにぱっと笑みを深めた。
真っ白い鳩は白い花びらを落とし、花の雨がふわふわと降り注ぐ。
「ベルさん。改めて、俺と結婚してくれてありがとう。末永くよろしくお願いします。」