第2章 誘惑
「どうかしました…?」
何でもないふりをして声を掛けてみる。
「あ、いえ、それでは受け取りのハンコかサインを…」
そう言って伝票を差し出してくる彼の手に、受け取るように左の手を伸ばして。
かっこいい、素敵な手…。
つい、そっと私の手を重ねてしまった。
「っ、内村さ…」
困ったように視線をそらしたまま、慌てる山下さん。
私もこんなことをするのは初めてなのに、彼の反応が嬉しくてつい…。
「山下さん、麦茶、飲んでいかれませんか? 熱中症で倒れちゃったら困るでしょ」
自分でも予想外の事を言ってしまった。