第19章 それぞれの想い
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(──違う)
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俺は、シャワーのコックに手を掛けたまま、流れ落ちる湯に打たれていた
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(──違う、こんな筈じゃなかった)
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会社を大きくしたかったのは、お前を傍に置いておきたかったからだ
お前を誰にも触らせたくなかった
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だから
誰にも盗まれないように、大事にしまって、隠して置いたのに
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全ては、お前の為…お前を……守る為……
……なのに
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(何故だ…?)
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俺は何をしてる…?
これは、俺が望んだ事なのか…?
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“結婚なんて、形だけだから”
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(…そうだ、確かにその筈だった)
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なのに…俺は…
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(…何、してるんだろう)
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──キュッ
俺は流れる湯を止めて、シャワールームを出た
寝室のベッドには“妻”が静かな寝息を立てて横たわっている
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(愛しい、と思う)
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単純に
この、お腹に宿る小さな命を
それを宿した、無垢な彼女を
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(…何で…こんな…)
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俺は、それでも智を手放したくはなかった
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(……俺のモノだ…俺のなんだ…俺の……)
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あの、笑顔も
長く美しい指も
綺麗な躰も
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……全部……
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(…俺のなんだ…!)
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なのに…
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(…誰か、いる)
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俺の智を掠め取ろうとしている奴がいる
智が俺と寝たがらない理由は他には考えられなかった
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(…誰にも渡さない…絶対に…
何もかも、失ったとしても、お前だけは…)
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「ぅ…ん」
“妻”が寝返りを打った
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(……何もかも?)
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何も知らない、安らかな寝顔…
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(…本当に、それで良いのか…?)
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「…俺は…何をしてるんだ…」
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(…どうしたいって言うんだ)
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俺は、それ以上何も考えたくなくて
ベッドに潜りこんだ
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