第57章 洞観
小さな事件の翌日、エルヴィン団長は全兵士の前で団長室に窃盗が入った件を公表し、目撃者を募った。
その反応を幹部の皆さんが目を光らせて観察している。
ハンジさんやミケさんが広く色んな兵士の反応をまんべんなく確認していたのに対して、リヴァイ兵士長だけは、ただその一人だけを射るように、まるで挙動の一つも見逃さないように警戒していた。
結局目撃者は現れることがないまま、その夜に幹部の皆さんが団長室に集まった。
「外部からの侵入の線はないと思うんだけどなぁ……いくら兵服で変装して忍び込んだとしても、うちは小さい兵団だから見慣れない顔を見たって兵士が一人くらいいてもいいはずなんだよね……。」
ハンジさんがうーん、と首を傾げ、ミケさんも小さく呟いた。
「―――――となれば、既に兵士に溶け込んでいる諜報員がいるということになる。」
「そうなると、かなり長期で潜入していることになるな。直近で入った奴でも――――――もう3ヵ月近く経ってる。そんなに時間をかけたにしては雑で、盗んだものもシケてやがると思わねぇか。」
リヴァイ兵士長は腕を組んだまま、腑に落ちないという顔で紅茶をすすった。
「――――確かにそうだね。よっぽど欲しいものだったのか、どうしても急に必要になったのか………。」
皆さんが一様に、この謎の多い小さな事件について首を傾げた。エルヴィン団長はふふ、と小さな笑みを湛えている。
「ねぇちょっと、エルヴィンはどう思ってるの?」
「―――――ナナの意見を聞いてみようか。」
「えっ、私、ですか?」
「え、ナナ何か知ってるの?」