第56章 事件
仕返しする気だ。わざわざリヴァイさんがいる時に――――――………。
うすうす気づいていたそれは確信に変わる。
エルヴィン団長から、紳士で大人な調査兵団団長という仮面を取り払ってただのエルヴィン・スミスにしてしまうと、こんなにも悪戯で意地悪で、自分の欲に素直に行動する少年のような人だ。
頭脳の伴った少年がどれくらい厄介なのかは、私がおそらく一番身に染みて知っている………。
「これからよろしく、ナナ。」
「――――は、い………ぁ……っ、ん、ッ……ふ………っ……!」
答えようとして開いた唇に隙間なく舌を差し込まれ、容赦なく私の舌を絡めとられる。
「―――――可愛い……ずっと欲しかった―――――君が。出会った時から。」
「………うそ………。」
「嘘じゃない。どうでもいい女性なら、わざわざ唯一無二の戦友から奪い取ったりしない。」
「――――――………。」
「共に生きよう、ナナ。君を愛してる。―――――今すぐじゃなくていい。君からも同じ言葉が返ってくるように、俺も努力しよう。」
涙が出るのはなぜか、わからない。
もう引き返せない。
毒を以って毒を制する、そんな言葉があった。
エルヴィン団長の甘い甘い中毒性のある毒が、私の身体を駆け巡っていくようだ。
それがいつか、リヴァイさんへの想いも、記憶も、なかったことにしてしまうのだろうか。
――――――それが酷く怖い。