第56章 事件
「各訓練兵団から所感が届いたよ。調査兵団に興味を持つ訓練兵が増えたようだと聞いた。うまくやってくれたようでなによりだ。」
エルヴィン団長に任務報告をすると、にこやかな表情で労ってくれた。
「サッシュさんとリンファの実力のおかげです。」
「君の評判も良かったようだよ。謙遜する必要はない。」
その言葉を上手に受け取ることができず、曖昧な笑みで誤魔化した。
「――――エレン・イェーガーには会えたのか?」
「はい。ですが………訓練中ということもあって、グリシャ・イェーガーの……彼の父に関しては話すことができませんでした。エレンは必ずこの調査兵団に入ると言っていたので、待ち遠しいです。」
「そうか。」
「もう一人、エレンの友人が――――――外の世界の、海の存在を口にしていました。―――――彼にもまた、話を聞く機会があればいいのですが。」
「――――それは興味深いな。引き続き訓練兵団とやりとりをすることがあれば、君の耳に入れるようにしよう。」
「ありがとうございます。」
「あとこれは読み終えたので返しておこう。―――――だが、君の部屋に置いて置くことも危険だと思っていてね。どうだろう、私の私室で預かるのは許してもらえないかな?」
エルヴィン団長がワーナーさんの日記を差し出した。
エルヴィン団長が何かを強く警戒している。
何かが起こりそうなんだ。
私の鈍感さではまるで察知できないその“何か”を防ぐ、最小限にするためのエルヴィン団長の打ち手はこれ以上ないくらい的確だ。
ワーナーさんの形見を、離したくないなんて私の我儘を言ってはいけない。