第55章 南方駐屯訓練兵団
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――――――わからないわけじゃない。ナナのことを信じてる。
でも、ずっとずっと我慢してた。切なかった。
サッシュがナナの事をどれほど好きだったか、見てりゃわかる。それくらい―――――あたしだってサッシュのこと見てたから。
ナナは兵長しか見えてなかった。まるで他に男なんて存在してないとでも言うように、兵長にだけ頬を染めて兵長にしか見せない笑顔で笑う。
―――――サッシュの想いが叶う可能性は限りなく0に近かったけれど、小狡いあたしは更にその可能性をより0に近づけるため、兵長とナナのことを応援した。それも、サッシュを巻き込んで。
建前はナナが幸せでいればいいなんて言いながら、結局は自分の欲を諦めきれず、親友をダシに使って男を得ようという薄汚れた自分を嫌というほど認識した。
―――――あたしも所詮あの女と一緒か。
あたしをダシに男を繋ぎ止めていた、母親と。
サッシュの部屋の扉をノックする。
「―――――なんだ。」
「―――――あたし。」
返事はなかったけれど、いつものことだ。おかまいなしにサッシュの部屋に入ると、ビールの小瓶を片手に窓の外を眺めているサッシュの姿があった。
あたしをチラッとみて、ふてくされたようにフイッと顔を背けた。
「―――――何の用だよ。お前が部屋に帰れって言ったんだろ。」
「―――――ナナのこと、まだ好きなの。」
「―――――は…………?」
俯いたまま、問う。声が震える。
もしかしたらもう、サッシュともナナとも、今までみたいに過ごせないかもしれない。
あんなに居心地の良い居場所は他にない。
あたしが欲を出さなければ――――――ナナの決意を受け入れて、いつものように笑ってサッシュをたしなめれば、このままでいられる。