第5章 絶望
「先生は……偶然王都に診察に行かれていたので、無事でしたが……その後行方がわかりません。子供たちは、なんとかトロスト区まで避難していて、今も避難所で生活しています。逞しい子達です。……ただ、子供たちを逃がすために……奥様が、子供たちの目の前で、巨人に食われたと………。」
ナナは悲痛な面持ちで語った。
「………おそらく」
俺が声を発しても、目線を上げない。
ナナの視線は落とされ、ただ一点を見つめていた。
「お前は自分がいなかったせいだとか、自分がいればなにかできたはずだとか思ってんだろうが。」
「…………。」
「それは傲慢だ。お前がその場にいたところで、何もできやしない。……いくらお前が有能な医者であろうとも、食われた人間を生き返らせることはできない。」
「…………。」
「ガキが助かったのは、その母親が勇敢だったからだ。そして、その母親が食われたのは、………この世界に、人類を捕食する巨人が存在するからだ。」
「…………。」
「例えその場に俺がいても、そいつらを守れたかはわからねぇ。………立体機動装置…対巨人戦闘の為に作られた移動装置と武器を駆使して、巨人をぶっ殺すためだけの訓練を何年も何年も受けて………そんな兵士が、一瞬で食われることもある。そんな相手だ。………お前の、出る幕じゃねぇんだよ。わかるか。」