第5章 絶望
私は王都の中心にあるオーウェンズ病院に単身赴き、すべての病室の状況を確認したうえで、父のいる院長室に向かった。
「お父様。私の、一生のお願いです。」
「……なんだ。」
私は首元のクラバットにそっと触れると、勇気を振り絞って父に訴えた。
「この有り余った病室で、トロスト区の避難民の一部を受け入れましょう。」
「………何を言うかと思えば………。今は仕事中だ。お前のお遊びに付き合っている暇はない。」
「本気よ。私には理解できない。医療を必要としている人がいる。それを提供できる場所がある。なのになぜ、それが出来ないというの?!」
私の叫びに、父は眉一つ動かさずに言葉を並べる。
「なぜ?医療は慈善事業ではなく、ビジネスだからだ。」
「ビジネス……?」
「避難民に、治療代・入院代が支払えるのか?家も土地も仕事も無くした人間に。………私たちが相手にするのは、対価を支払える客だけだ。」
絶句した。
私が必死で学んできたことは、金儲けの手段だと言うのか。母だけでなく、私も絶望させるのか。
「………わかった。もう、あなたには頼まない。期待もしない!親子だとも思わない!!!」
「…………。」
父はただ、私を見ていた。