第46章 潜思
遺体の安置所でただ一人静かに横たわる女は、かつて俺が抱いた女だ。
小さく背中を丸めたナナバが、アウラの遺体に寄り添っている。歩を進めてナナバの横に立つとナナバは俺を見上げたが、その顔はひでえ様子だった。
班長経験もあるが、目の前で自身の班員を死なせたのは初めてなのだろう。
「――――――通常種はこともなく、やれたんだ。」
「―――――………。」
「奇行種が私たちに目もくれず、本隊のほうへ駆け出して――――――。アウラがいち早く、奴を追った。その時――――――小さく、『本隊へは、行かせない』と……死を覚悟したみたいに、絞り出すように言った――――――。アウラが奇行種にとりついて時間を稼いでくれなければ、援護は間に合わず――――――本隊を、エルヴィンを――――――ナナを、襲っていた。」
ナナバが苦しそうに頭を垂れて拳を握りしめた。
俺はアウラに寄り、白い布をとった。
脚を食いちぎられ失血死したからか、その肌は青白く、見る影もない。
「私が動けば良かったんだ、アウラよりも先に――――――。」
「―――――誰もが等しく死ぬ可能性がある。お前のせいじゃない。それに――――――班長自らが最も危険な役回りを率先して買って出るのは、無能のすることだ。」
「――――――は………。慰めてるつもり?……きっついな………。」
ナナバは小さく笑って立ち上がった。
「―――――生かされた命は、この先に役に立てる。ありがとう、アウラ。」
そう一言残して、安置所を去った。