第40章 甘露
「はは、そんなに警戒されたら傷つくな。」
「あ、その………っ……。」
「あと30秒だけ、君が戻って来たことを実感したい。」
エルヴィン団長はそう言って、座ったまま私の方に片腕を伸ばした。
私はその引力に引かれるようにして一歩踏み出して、しまった。
「――――――!!」
案の定私の腕は強く引かれ、気付いた時にはその腕の中にしっかりと抱きすくめられていた。
大きな身体は、大人と子供ほど差があり、すっぽりとその中に収まってしまう。
「――――あ、の……っ……!」
「――――――心配していた。気が気じゃなかった。―――――おかえり、ナナ。」
抵抗しようかとも思ったが、きっと律儀にあと数秒でその腕は解かれる。そう思って抵抗をしなかった。
それに、エルヴィン団長からこんな弱気な言葉が出ることに、ただただ驚いていた。
次の瞬間エルヴィン団長の大きな手が私の頬から顎に添えられ、震える身体を奮い立たしてそれを防ぐようにエルヴィン団長の唇に両掌で壁を作った。
「―――――時間切れ、です………!」
エルヴィン団長は意地悪な笑みを零す。
「―――――時間があれば、良いということになるぞ?それは。」
「違います!!」
「まだダメだったか。案外攻略が難しい。」
エルヴィン団長は私を囲っていた腕を解き、ふむ、と言わんばかりに顎に手を当てて考える仕草をした。
「私で遊ばないで頂けませんか……!」
「遊んでないよ、本気だ。至って真面目に君を手に入れる方法を考えている。」
「~~~~っ………。」
「まぁ戦略はじっくり練るものだからね。せいぜい足掻いてくれ、私に、負けないように。」
エルヴィン団長は不敵な笑みを浮かべた。
「仕事!!しましょう!!!団長は忙しいはずですから!!!」
私は真っ赤な顔で勢い良く立ち上がって、テキパキとカップを片付けた。
いつどうやっても、この人には何一つ敵わない。
ドクドクとうるさく鳴る心音に気付かれたくなくて私は足早に団長室を去った。