第38章 愛欲 ※
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――――――また俺は、ナナを傷付けた。
いつも我儘ひとつ言わないあいつの小さな我儘と小さな嘘ですら、受け入れてやれる器もない、なんて小せぇ男だと自分自身が嫌になる。
泣かせたいわけじゃない。
例え何があっても、お前を嫌えるはずなどない。
―――――なのに他の男に身体を開いたことを想像すると、驚くほど負の感情が爆発する。
現にこうして無抵抗のナナを、まるで罪を償わせるように抱きつぶしている自分がいる。
この矛盾をどうすればいい。
―――――――例えお前が他の男と歩むと決めたとしても、ただ見守ることができる男であれたら。
自分の欲望を切り離して、あいつを神聖なまま守る対象において、庇護し、導く。
ワーナーが俺に望んだとおりの、そんな綺麗な自分でいられたら、どんなにいいだろう。
「ナナ、俺は――――――どうすりゃいい…………?」
小さく呟いてみても、ナナはすでに壊れた人形のように、ただその身体を揺さぶられるだけで反応もない。
どんなに欲をぶつけても、眉を下げて、微笑んで受け入れてくれるお前を期待してしまう。
いつか思った、俺が本当にナナを壊してしまう前に、いっそ愛想をつかして俺から逃げきってくれたら―――――
そんな思いが、強くなっていく。