第36章 抱擁
奪還作戦から一か月と少しが過ぎて、ダミアンさんとの約束通り、王政は疫病が猛威を振るい始める直前で人の流れを止めた。
各区は閉鎖され、物資の運搬や王政の許可があるものしか行き来ができなくなった。
もちろんこの状況を打破しない限り私は調査兵団には帰れないとは思っていたが、物理的にもいよいよ帰れなくなった。
最も感染者が少ないのはもちろん王都。
これは想像に過ぎないが、自分たちの身に危険が及ぶ前に、疫病を封じ込めたかったのではないだろうか。想像していたよりも、王政の対応は早かった。
各区にそれぞれ多少の感染者は出ているものの、医療体制が崩壊するような事態は避けられそうだ。
ただ―――――――感染者の内、低い割合であれ、死者は出ていた。特に、若い世代に多い傾向だった。
それを痛感した、ある日の手紙――――――
私は、エルヴィン団長から届いた手紙を見て、愕然としてその手紙を手から落としてしまった。
「―――――姉さん?どうしたの。」
ロイが、落ちた手紙を拾って私の顔を覗き込んだ。
「……っ、どうしたの……?……泣いてるの……?」
目からとめどなく涙が零れる。
まさか。
そんな。
約束したのに。
いつか、たくさんアルルの話をしようって。
もう、二度と会えない―――――――。
「―――――――ニナさん………。」
衝撃的だったエルヴィン団長からの手紙―――――――ニナさんが、疫病により亡くなった。
調査兵団内で初めての犠牲者が、出てしまった。
「……大事な人が、死んだの?」
ロイの問に、私は黙って頷いた。
ロイは、黙ったまま私を背中から抱きしめた。何を言うでもなく、ただただ私の身体の震えを受け止めるように、ずっと。