第31章 罪
ライオネル邸から戻ると、屋敷の空気がなにやらおかしい。洗濯や掃除をする使用人の姿がない。
「…………?」
不思議に思いつつ、ハルの部屋を訪ねる。
ハルはいつもの通りベッドに寝ており、柔らかな日差しと少し開かれた窓から吹き込む新緑の風がレースのカーテンを揺らしていた。このまま消えてしまいそうな儚さに胸が苦しくなる。
私がベッドの脇の椅子に腰かけると、ハルの瞼がゆっくりと開いた。
「………お嬢様………?」
「帰ったわハル。心配させた?ごめんね。」
「お嬢様………っ!」
ハルはハッと私を見上げて、心配そうな表情を見せた。
「大丈夫ですか、ライオネル公爵になにか………されたのでは………っ……!」
「大丈夫。何も心配しないで。」
私の言葉にほんの少し安堵の色を滲ませたハルの手を握る。
いつもなら、喉の渇きを癒すための水がハルのベッドの傍らに置いてあるのに、今日はそれが見当たらない。
「―――――ねえ、今日………なぜこんなに使用人が少ないの………?」
「――――――それが…………。」
「クビにした。」
まるで悪意のない明るい声に振り返ると、そこにはロイの姿があった。
「クビに……した………?」
「そう。全員ね。」
「うそ、冗談でしょ………?」
「冗談なわけないでしょ。見た通り、この屋敷には僕たち以外誰もいないよ。」
確かに、庭師も、メイドも、執事も、いつもそこにいるはずの人たちを一切見かけていない。