第28章 密偵
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団長室を出て執務室にナナが足を踏み入れたと同時に、閉められた扉に手をついてナナを囲う。
「―――――行くなと言っても、行くのか?」
「………はい。」
「――――――もし、もう二度とここへ帰れなくなるような罠だとしても、か?」
「………はい。」
こいつの意志は固い。知っていたはずだが、ほんの少しの期待は淡く打ち砕かれた。
「――――――そうか。」
「帰ってきます、必ず。」
ナナは強い意志が籠った瞳で俺を見つめる。
濃紺の瞳に映る自分は、驚くほど情けねぇ顔をしていた。
「ふふ、そんな顔をしないでください。弟なので、とって食べられたりはしませんよ。」
ナナが優しく両手で俺の頬を包む。
どちらからともなく距離がなくなり、唇を吸い合った。
「――――――ナナ、抱いていいか。」
「はい。抱いて欲しいです。」
それから俺たちはお互いのことを脳裏に焼き付けるかのようにひとつひとつの行為において五感全てを使って感じ合った。
ナナが何度も何度も呼ぶ俺の名は、とても特別なもののように深く記憶の奥底に刻みつけられた気がした。