第26章 落着
「釘を刺す………まさか、脅したんじゃないだろうな?」
「あ?……そうだ、脅した。『ナナになにかしやがったら、殺す』と。行動を制限するのに、恐怖は有効だろう?」
額に手を当て、頭を抱えるようにエルヴィンは俯いた。まるで呆れている様子だ。なんなんださっきから。尋問かと思えば、頭を抱えてため息をつきやがる。
「………少しはナナを通して女心や女性の扱い方を学んだと思っていたが。」
「あ?」
「その脅しは逆効果だ。おそらくお前のそれが彼女の行動を後押しした。……意地にならせたというわけだ。わかるか?」
「………わからねぇな。」
「お前がなりふり構わずナナを守ろうとすればするほど、彼女の敵意はナナに向く。」
「………敵意なら俺に向ければいいだろう。」
「………それが女心の難しいところだ。愛した男を憎むより、愛した男が愛した女を憎む方が容易い。」
相変わらずこいつは人の頭の中を解剖したかのような物言いをする。
「もっとアウラを刺激せずに、行動を抑制するように振る舞えたと思うぞ。」
「…………どうやって。」
「彼女の自尊心や要望を満たし、綺麗な思い出として過去のものだと納得させてやればいい。……要望のひとつやふたつ、出てきただろう?」