第251章 〈After atory〉紲 ※
―――――大人と呼べる歳になって初めて、かもしれない。
自分の誕生日を覚えていて……楽しみだと、思ったのは。
「誕生日に何が欲しい、ナナ。」
「えっ。」
それは、冬が終わりを告げようとしている冬と春の間。
月が高く夜空に昇る時間。
エイルが眠って、リビングのソファに座って紅茶を飲みながら新聞を読むリヴァイさんからふいに投げられた質問だった。食器を洗い終えてキッチンを片付け、回答に悩みながら、リヴァイさんの方へと歩を進める。
眠る前の紅茶はいつもリヴァイさんが淹れてくれて……私の分も、ローテーブルにきちんと置かれて、そのかぐわしい香りが湯気と共に立ち昇っている。
……あ、この紅茶はこのあいだ私が茶葉のお店で、『好きだなぁこれ』と呟いたやつだ。
甘香ばしい香りのアッサム。
あの時リヴァイさんは私が買わなかったのも見ていて、きっと別の日に買いに行ってくれたんだろう。……それを言わずに、こうやってこっそり出してくるところが本当に可愛らしくて……嬉しくて……ついつい顔がにやけてしまう。
せっかくのリヴァイさんの好意を冷めてしまわぬ間に味わおうと、エプロンも外さないままリヴァイさんの隣に腰かけて両手で大事にカップを包み込んで口をつける。
鼻をくすぐるような甘く芳醇な香りと優しい渋みがミルクでまろやかに調和している。
私は思わずうっとりとしながらはぁ、とため息をついた。
「………美味しい……これ、私好きです。」
「……だろうな。」
「ふふ。」
「そんなことより、答えろ。誕生日に何が欲しいか聞いてんだ。」
呼んでいた新聞をばさ、と置いて、リヴァイさんは腕を組んで私の方を見た。絶対に聞き出してやるからな、という強い意志を感じる……。
でも、別にリヴァイさんを困らせたいわけじゃなくって……ただ毎日が幸せで……これ以上欲しいと思うものなんてない、と言う意味なんだけどな。
どう答えていいかわからず、カップを口につけたまま考えてみる。