第250章 〈After story〉花
「あの、なんだかとても恥ずかしくないですか。」
「あ?お前が言ったんだろ。」
「はい、あの、でもまさか本当に抱っこされるとは思ってないじゃないですか……!リンファとサッシュさんから冷やかされそうです……。」
「いいんじゃねぇか、見せつけておけば。」
「リンファさんとサッシュさんもいちゃいちゃしてるよきっと!」
あはは!!とエイルも大きな口を開けて笑う。
もう、なんだか幸せだからどうでもよく思えてきてしまって……私は観念して、素直にリヴァイさんにぎゅっと抱きついて頬ずりをする。するとリヴァイさんは私を見つめて、エイルを見つめてから目線だけを空に向けた。
「あぁ……これはあれだな、いわゆる……」
「………どうしました?」
「両手に花ってやつだな。悪くねぇ。」
「私たちお花だって!嬉しいねぇ、お母さん!」
「ふふ、そうね。」
“ありがとね、ナナ”
“ありがとうな、ナナ”
ふと、声が聞こえた気がした。
その声は少し呆れているようで、でもやっぱり温かい。
柔らかく私の髪を撫でていく風に乗せるように、小さく空の彼方へ向けて言葉をこぼした。
「―――私、幸せだよ。ありがとう、サッシュさん、リンファ。」
私がぽつりとつぶやいた一言に、リヴァイさんも言葉を重ねた。
「―――俺も幸せだ。こっちは心配いらねぇから……そっちで仲良くやりやがれ。」
「……リンファさんもサッシュさんも、私たちのことお空から見てるかな?お父さんと……ハンジさんも一緒に。」
「――――うん、きっと見てるよ。」
私たちは日が落ちるまで、何をするでもなくその丘でゆっくりと、穏やかな時間を過ごした。
三人並んでカモミールの花畑に寝そべって青空を見上げる。
ただそれだけの今が、何よりも愛おしい。
きっと来年も……その先もずっと、春の柔らかな日差しが降り注ぐ季節に、可憐な白い花がこの丘を埋め尽くす。
その度にここを訪れよう。
私たちの今が続く限り。
〈After story〉花 ~Fin~