第247章 〈After atory〉虹
とぽとぽとぽ、かしゃん。
美しい紅色の液体が真っ白な陶磁器に注がれて、ソーサーの上にセットされた。かた、かたかたかた……と震える手で客人の元まで紅茶を運ぶのは……真剣そのものの顔をした少女だ。
「ど、どうぞ!アーチさん!」
少女は……エイルは、ふぅ、と大仕事でもやりきったように満足そうに俺に柔らかな笑みを向けた。
「ありがとうエイル。」
頭を撫でると、とても嬉しそうに頬を赤らめる。
数か月前、リヴァイ兵長がナナさんを連れ戻してトロスト区のこの家に住まうようになったと風のうわさで聞いた。
すると、どこで俺の居場所を調べたのかある日一通の手紙が届いて……そこには不愛想に “マーレ産の珍しい茶葉がある。飲みたきゃ来い” という一見脅迫まがいな文字が書かれていた。
俺はその手紙を見て、笑いが込み上げたと同時に……涙が浮かんだ。
――――あぁあんた今、幸せなんだな。
俺にありがとうって、言いたいのかと理解したから。
俺がこの家を訪ねた時、扉がぎこちなく開いて……そこには目の前に天使みたいな女の子が大きな目を俺に向けて立っていた。
似てる。
ナナさんと……エルヴィン団長に。
女の子は初対面のはずの俺に、輝くような笑顔で言った。
「アーチさんですか?こんにちは!エイルです!」
屈託もなく、ただただ無垢で眩しい笑顔。
その子の白い肌によく映える深い蒼の瞳が細められて、頬に薄桃色が差す。目を奪われる眩さだ。
そして俺は――――懐かしい感覚を思い出した。