第242章 慟哭
それからの日々は、大変だった。
まぁ姿を消すのが上手いというか何というか……、兵長に所縁のありそうなところは片っ端から探した。
もちろんナナさんと兵長が一時期一緒に暮らしていたそこに帰るだろうと思って一番に訪ねたけど……俺が探しに来るとでも読んでいたのか、しばらく張っていてもそこには現れなかった。
――――そして、ナナさんに所縁のある場所もあたった。俺は中央憲兵にいた頃にナナさんを張ってた時期があったからオーウェンズの情報もよく知っていたし、一時期調査兵団と懇意にしていた新聞記者にも聞きこんで、ありとあらゆる場所を探した。
王都のオーウェンズ家周辺に身を置いていた時だ。
パラディ島に戻って三か月が過ぎようとした頃。
ナナさんの母親の小さな医院から出てきた少女に、俺は釘付けになった。
「――――ナナさん……?!」
そんなはずない。
でも、遠目からでもわかるほどそっくりだ。
他人の空似、とかじゃない。
確実に遺伝子レベルで血が繋がっていることを物語っていた。ナナさんの母親と一緒に手を繋いで歩く姿から、歳の離れた妹かもしれないとも、思ったけど……、その少女はある男性を見つけると、その名前を呼んで走り寄って行った。
「あ、ロイおじさん!」
ロイ・オーウェンズ。
ナナさんの弟だ。
彼を叔父さんと呼んだ。
ということはやはり間違いない。
ナナさんには、娘が……いた。
その事実を兵長が知らないわけがない。
いや、なんならあの子はもしかして――――……。
胸が躍るようだった。
兵長、絶望するにはまだ早い。
――――ねぇ兵長。
諦めるなよ、自分の幸せを願っていいんだ。
あんたが足掻けないなら、力になるから。
もう一度ダメ元でトロスト区に戻って……兵長とナナさんが暮らした部屋を訪ねた。
夕暮れ時、レンガ造りの大きな家の二階。
とってつけたような階段を上った先にある小さな部屋。
――――そこには小さく、光が灯っていた。