第242章 慟哭
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その男が一人食事をし眠るだけの部屋からは、ほとんど音がしなかった。
しかしその日の昼前。
ぎし、ぎし、ぎしぎしぎし、と……その部屋に続く外階段が崩れ落ちるのではないかというほどの木が軋む音と、建物自体の揺れを感じた。男は、嫌な予感しかしなかった。
「兵長。おはようございます。俺です。紅茶、飲みにきました。」
「…………。」
やっぱりかと頭を抱えつつ、そして沸き立ちそうな怒りを感じつつもそれを露わにする気力もなくて、男はすこぶる悪い顔色と不機嫌な顔で扉を開けた。
「あっ、へーちょー!!お久しぶりです!」
「兵長!お邪魔します!!うわ、初めて来た、兵長の部屋!!」
「……ジャン、あまりきょろきょろ部屋を見るのは失礼。」
「兵長、お体どうですか?あ、これ差し入れです。」
「…………。」
扉を開けると無遠慮に、元部下たちはずかずかと男の縄張りに土足で入り込んでくる。きっとこういう図太い奴らだったから生き残れたのだと長く深い溜息をつきながら、こんなことになった張本人を恨めしそうに睨んだ。
「また朝飯食ってないでしょ、兵長。パン持って来たんで、さっそく紅茶の淹れ方教えてください。」
戦っていた日々には見たことのなかった、まだ幼い顔立ちの元部下はニッと口元を引き上げて言った。前日に共に朝食をとった元部下が家に来ることは許可したことは記憶にあったが……なぜこんなにも大人数が家に押しかけてきているのか、男は理解できないまま腕を組んで凍り付いたような視線を、いそいそとキッチンを物色する元部下に向けた。
「あ、兵長ティーカップが足りないんですけど。」
「当たり前だろうがクソ馬鹿野郎……!誰がガキども全員呼べと言った?ここは兵舎じゃねぇんだぞ?今すぐ帰れ……!」
「あっ、そう思ってティ―カップ持ってきてます、大丈夫です!」
「さすがアルミン準備がいい。」
「はいジャン、はいコニー。」
「おう!」
「兵長直々の紅茶なんて、贅沢っすね!そして部屋、狭いな!!」
無神経に感想を述べるコニーの頭を、ジャンがスパン!!と小気味よくはたいた。