第240章 結末
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「ベーコンエッグとパンを2つずつ。あと……この人は紅茶で、俺は……ミルクで。」
「……ガキ。」
「う、うるさいな……。紅茶あんまり飲まないんですよ……!」
「はいよ、お待ちくださいね。」
老夫婦が営む、町の喧騒から少し離れたところにある小さな民家の一室のような店だった。メニューを見ようともしないかつての上官の朝食を手早く注文してから、彼はふっと息を吐いて窓から空を見上げた。
上官の男には、彼のその表情はどこか寂しそうに見えた。
「――――今度、カモミールをやる。」
「え?」
「紅茶の種類だ。飲んでみればいい。好きになれるかは知らねぇが。」
「そうですか……、はい、ありがたくいただきます。淹れ方わからないんで、兵長の部屋で。」
「なぜ俺の部屋に来る必要がある。勝手に飲みやがれ。」
「いやティーカップもポットも持ってませんし、俺。」
「………ちっ………。」
「あ、仕方ねぇな、の舌打ちですね今の。じゃあ明日また来ますよ。」
「うぜぇ。」
「ひどいな。傷を負った元上官をかいがいしく世話してるだけなのに。」
そんな軽口をたたく元部下は……優しい人間だ。
けれど、彼は戦っているときこそ生き生きとしていた。それはきっと、大切な人を亡くし続けて……戦い仲間を守るその瞬間にしか、生きる意味を見出せなかったのかもしれない。
平和そのものである今、彼が何のために生きていけばいいのかわからず、彼自身居場所を探しているように見えて……男はそんなまだ幼さの残る彼が寂しそうに空を見上げる横顔を見ているとやはり放ってはおけなくて、また明日も家に来ることを許してしまった。
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