第239章 不帰
俺はとても直視できず、唇を噛みしめてナナの姿を視界から消した。スラトア要塞の台地から滑り落ちるように次々に巨人化させられたユミルの民が……知能も持たず、憐れに暴れまわるその図は地獄以外の何ものでもねぇ。
ナナだけじゃない。
ジャンも、コニーも……ガビも、アーチも……エレンの操り人形のように意思もなく地を駆け、標的であるライナーやアルミンを狙う。
アニが巨人化してライナーを援護し、光る “何か”をエレンに近づかせまいと奮起する。ファルコの背から涙を散らしながらピークが飛び立ち、巨人化をしてそれに加わる。エレンとアルミンは巨人の姿のまま、タイマンでの打ち合いを始めた。
ファルコの背に乗ったまま俺とミカサはエレンを殺すための最後の雷槍を装備する。その時、何かに苛まれるようにミカサが頭を押さえて痛みに耐えるような声を発した。
「うあぁ!!」
「ミカサ?!しっかりしろ!!もうエレンを殺せるのは俺達だけだ!!」
何が起こった?
ミカサの突然の頭痛はこれまでにもあったが……何かを拒絶しているのかのように頭を抱えてうなっている。
ミカサが本格的に戦えないなら、今度こそ俺が本当にエレンを殺す。
ナナを省みず―――――
ナナが大事にしているエレンを殺す。
更に言うなら……
すべての決着がそれでついたとしても――――
巨人化したナナをこの手で殺す。
――――あぁそうか、『死すら俺の手で。』
それをこんな形で実現させることになるとはな。
どこまでも皮肉な運命だ。
ナナといたこれまでの時間で、どんなに自分が少し綺麗なものになれた気がしていても……
所詮俺の手は、血に塗れているのが常なのか。
―――――しかもそれは、守りたかった愛しい者たちの血だ。