第236章 死線
―――――――――――――――――――
飛び立つ瞬間、その一瞬に、目が合った。
伸ばしたいその手は必死に操縦桿を握っていた。
声を出せば震えてしまいそうだから唇を噤んだ。
決して涙は流さない。
あなたを心配させない。
強く強く唇を噛んで涙を堪える。
もし私がこのまま死ぬとしたら、リヴァイさんに最後に見せた顔はとても可愛いとは言えない表情だっただろうと思うとちょっと落ち込む。
目を見ただけでわかる。
“無事でいろよ”
そう、言ってた。
「っくそ……、いよいよ燃料も尽きた……!ナナさん、このまま高度を落として、スラトア要塞に不時着を目指します……!」
「はい!」
はい、と言ってみたものの……スラトア要塞は、だだっ広い平地の真ん中に一つの山のてっぺんを平らにならしたような、そんな要塞だ。
その山をらせん状に巻くように鉄道が走っている。もし高度の調整を失敗すれば……その山の中腹に突っ込んで機体は大破、私たちはきっと即死だ。
高度が高すぎれば、スラトア要塞を通り過ぎて平地に墜落というところか。
――――どちらにせよ、ものすごく難易度の高いことだというのは理解できる。
「オニャンコポンさん、いつでも指示、ください……!」
「はい、宜しくお願いします!!」
オニャンコポンさんの的確で細かい指示の元、何とか大きく機体を揺らしながら、不安定なままスラトア要塞へと飛行艇は近付いていく。
一つでも計器を読み違えたら……、少しでも操縦桿の操作を間違えたら終わるというこの上ない緊張感は、患者さんの命を握る手術になんだか少し、似ている。
さっきの投石で機体の一部が損傷はしたものの、燃料やエンジンをやられなかったのが不幸中の幸いだ。
目前に迫る、スラトア要塞。
怖いと思った。
この速度で、本当に不時着できるのか?
――――いやでも、やれることはやった。
オニャンコポンさんを信じるんだ。