第233章 花弁
阿鼻叫喚。
地獄。
まさにそれはそれ以上形容しようのない、凄惨な景色。
それは地鳴らしで陸地を踏み鳴らす巨人たちの目から見た、足元で必死に逃げ惑う人々を見下ろした光景だ。
これが俺が求めた自由なのか?
これで正しかったのか?
答えはわからない。
ただ一つ確かなことは、誰かの自由は、誰かの不自由で。
縛られたくない俺は、全世界の人類の自由を――――……命を奪う。
その選択をした。
昔のことをなぜ思い出すんだろう。あれは……ナナが俺達の家にやってきて、多くの患者を診ながら慌ただしく過ごしていた日々。
ある日、俺の秘密の場所である家の屋根の上に、ナナが1人で座り込んで空を眺めていた。
その美しい両目から溢れる綺麗な滴を拭いもせずに。
涙の理由を問うと、ナナは小さな声で話してくれた。
ナナが往診していた、闘病していた少女が死んだそうだ。
『―――ナナには、関係ない人じゃんか。』
俺の放った一言に、ナナは驚いた顔をした。
そして俺の頭を撫でながら、諭すように言った。
『そうだね。関係ないと言えば、そうなのかもしれない。……でも、一生懸命生きようとしている命を救うことが、私の役目だから。私にとってあの子はもう、とても大事な……存在だったの……。』
『―――だから泣いてんのか?』
『うん。―――助けて、あげられなかった。』
『ナナが殺したわけじゃないだろ。』
『……私がもっと知識も技術もあったら、助けられたかもしれない。』