第230章 狼煙
「機関車の走行の原理、過去マーレ大陸で導入された歴史、事故記録、全て頭に入っています。脱輪による事故を故意に起こしたテロに近いものもありました。――――特別な人なら、こんな泥臭いことを……何度も理解できるまで本を読んで、教えを乞うてなんて時間を割かなくても辿り着けるのかもしれません。でも、私はそんな特別な人間じゃない。……できることを蓄えて、少しずつ少しずつ、私が誇れる強さを育ててきました。失敗しません。必ず成功する。――――お願いです。力を貸してください。」
――――風が吹いた。
キース教官は、風で舞い上がった枯れ葉を目で追って、空を少しだけ仰いだ。
「――――私が積み上げた屍にも――――……。」
「………?」
「――――いやいい。」
「……?はい……。」
「さっそく取り掛かるぞ。」
「!!はいっ!!」
キース教官と馬を駆り、急カーブのポイントで火薬をしかけ、線路に細工をする。細工と言っても本当にこれでいいのか?というほどの小さな仕掛けだ。
鉄の塊がものすごいスピードで一直線に進むその機関車の姿からは、一部の隙もないほど頸烈な乗り物に見えるけれど、横からの揺さぶりにはめっぽう弱い。
「――――来ます!」
「――――ああ、行くぞ!」
黒光りするその車体がカーブに差し掛かる。
……増援を急かされていたのだろう、さっきよりも更にスピードを上げていた。
「……これは、いける。」
キース教官が導火線に火をつける時間は完璧で、キュイィィィィイ、と金属が激しく擦れる摩擦音がした後に、小規模の爆発が起きた。
――――狙い通り、爆風と脱線によりバランスを崩した機関車は大きな音を立てながら横滑りして……
砂埃を上げた後に……まるで絵本の中に出て来る討ち取られたドラゴンのようにその大きな黒い身体を地面に横たえた。